人活工房

TOP > インタビュー企画 > “チーム”が生み出した「驚異的な仕事の時短」と「プロフェッショナル」の追及
Interview

“チーム”が生み出した「驚異的な仕事の時短」と「プロフェッショナル」の追及

オリンパス株式会社 外科エネルギー製品開発  本田 吉隆様、清水 興様、林田 剛史様

「この忙しい最中にやらなきゃいけないのか…」と思いながら始まった 1 年目

チーム開発プログラム(以下TDPと略す)を導入する前は、この取り組みをどのように認識していましたか?

本田:上司から TDP を主査でやってみないかと勧められ、「ちょっと考えさせてください」と即答を避けました。
全く新しいことに挑戦しなければならなかったので、自分自身にとって大きな負荷になるし、人選にも悩ましいと思っていたからです。
 私自身はこれまでにも人材育成をそれなりに経験してきていました。その中で、同じような働きかけをしてもなかなか自走できる状態にならない人もいて。そういう人に対してどう向き合えばよいかという難しさを感じていました。また、良いきっかけとなりそうなイベント毎に思いついたように働きかけをしていましたので、決まったプロセスとして繰り返すことによってみんながスパイラルアップしていくようなものではありませんでした。
ある人があるイベントで困っているとか、アカウンタビリティ(説明能力/当事者意識をもって他人事も自分事にできる力)が低い言動をする人がいたら、その場で働きかけましたが、定常的に活動するものではありませんでした。
 そういう背景からも、TDP を体験したことがなかったので正直「やらなきゃいかんのか…」という感じにはなりました。しかし、我々の開発のために会社が投資しトライアルするということなので、「やるからにはぜひ成果を出そう!」と自分の気持ちも切り替えて、参加メンバーにも説明し鼓舞していきました。
 メンバーに関しては、各世代から選出することと、アカウンタビリティが高い人・低い人それぞれ半数ずつにして、低い人を引っ張り上げることも含めて選出しました。

TDPが始まると聞いた時の参加メンバーはどのような反応でしたか?

清水:ちょうど製品の立ち上げ中で、一番忙しいタイミングの時だったこともあり、 TDP の説明をもらった時に、「え?」という反応でした。
「大変な研修をやるんだ」というイメージだったので、仕事と並行して実施となると、相当大変なことになると思っていました。
林田:はじめて話を聞いたとき、正直「この人、何を言っているんだろう」と思いました。
「この超絶忙しい時にそんなことやるのか」ということと、チームをビルドアップしていくという話だったので、「本当に職場は良い方向に変わるのだろうか?」と半信半疑でした。
また、それが所謂“研修”だったら「単に時間が取られていくだけで、嫌だなぁ」と思っていました。

TDPの導入が決まり、初めて体験した「セッション 1」 で印象に残ったことは何ですか?

本田:とにかく疲れました。日頃使わない脳を使ったというか「脳から汗が出ている」感じでした。
また、話し合いで合意形成するまでにとにかく時間がかかり、コーチの顔色を伺いながら何度も延長させてもらいました。
「自分達って、時間管理がこんなにできない人間の集まりだったのか」というのを強く感じました。
極めつけは「連帯責任をコミット」した時に、とてつもなく重たいものを背負った感じがした記憶が一番強かったですね。
林田:帰りの電車の中でメンバーと「意見って、こんなに合わないんだね」と話していました。
清水:私もその印象が強かったです。明文化した時に他のメンバーに「そこ、こだわる?何十分時間を使うんだ…」と内心思っていました。その時、改めて自分と人は違うということを再認識しました。

劇的に時短が進みましたが 1 年目の全セッションを振り返って気づいたことは何ですか?

本田:チームで目標達成できたのですが振り返ってみると、みんなで決めてやり始めると何とかなるものだなと。
最後は目標達成のための「追い込み」自体を楽しんでいました。例えば、業務時間に対する「打ち合わせ比率を下げる」という目標に対して、ゲーム感覚で取り組めている自分達がいました。施策を前向きにとらえていたし、集中力が高まっていきました。成し遂げるために「どうしたら良いのか」という点をみんなで考えて、フォローし合って進めることができました。
一方で、どうしてもアカウンタビリティが低い人たちが、自分事として積極的に言動するという状態にならない難しさがありました。
 実は、最終セッションが終了した後、実験的に(意図的に)チーム活動を止めてみたんです。そうしたら、やはりというか、翌月にはアカウンタビリティが下がって、元の状態に戻ってしまいました。やり続けないと「ダメになる」というのもよくわかりました(笑)。
清水:技術とか決めたことに対して「やりきるんだ!」というマインドは大分成長したと思う。
当初はどうしても「目標は立てるけど進まない」という状態でしたが、「上がりきるんだ」「やりきるんだ」という状態になれたのはとても変われたと思います。
林田:勉強する姿勢が出てきたのが良かったと思っています。
もともと業務中に勉強をしてはいけないものだと思っていた人が私も含めて多くいました。しかし、自己研鑽のために業務中に勉強したいことを勉強しても良くなったので、「こんなに良い時間を取れるんだ」と思いました。
本田:実際 TDP が始まってから今までに読んだ本は部署内に貯蔵しています。今はキャビネの棚2段分くらいあって、部署内のメンバーは誰でも読めるような状態にしました。
とにかく打ち合わせをしないで物事を決定するプロセスを施策でつくり、改良し続けた結果、打ち合わせ時間が激減。 1 人平均 4 日間/月くらい工数的に捻出することができました。その余剰時間を自己研鑽に使いたいと言うメンバーがいたので、本を読んだり勉強したり資格取ったりしていくこととなり、上手く他の施策が回りました。
他部署では見たことがない状態になっています。

成長したTDP経験者と未経験者が入り交じった新チームで展開した2年目

弊社からコンサルティングを受けながら自分たちでTDPを実施されましたがどのような状況でしたか?

本田:2年目は1 年目と同じくアカウンタビリティが低い人を引き上げられるように、1 年目の TDP 参加メンバーのうち半分の人と初参加のメンバーを混合して新チームを作りました。
残念ながら、自走した 2 年目は目標を達成できませんでした。しかし、最後の最後まで新チームとしてゴールを勝ち取るために、走り続けたという姿勢そのものを評価しています。上長としては大成功だと思っています。
ただ、メンバー側で色々討論をして方向付けをする中で、チームコーチ役の私が言いたいことを言えないフラストレーションがありました。よほど違った方向に話がずれてしまう時ぐらいしか、介入しないところが辛かったです。
清水:私は新しいメンバーが加入した時に、TDP 経験者がこれまでやってきた施策を「そのまま継続するけど良いか」という流れにならないように気を付けました。また、合意形成しなければいけないところが難しいところだと感じていたので、そういう点にも注意しながら進めました。
TDP を一年間経験しているのといないのでは圧倒的に違いました。「チーム内でメンバーが一人変わったら違うチームである」と小笠原先生が言っていたので、そのあたりは意識しました。
「意識した」と「出来た」はまた違いますけど(笑)。
林田:1 回目のセッションで TDP 未経験者から「怖い」と言われてしまいました。集合セッション中に経験者は何かをやらなければいけないことを探して自発的にすぐに動けます。しかし、そのことが当たり前ではない未経験者は、よく動く経験者を見て「なんか怖い。一回落ち着こう?!」と言っていました。
これはまさに経験者の成長でもあるし、たぶん一年後には未経験者もそうなるだろうと思いました。

2年目の学びもしくはメンバーの変化は何ですか?

林田:みんながファシリテーションを出来るようになったということ。
最初の頃、「私はファシリテーション能力をあげたくないからやりたくない」と何人かに言われました。しかし、役割を順番に回しながら進めていくことで、とあるメンバーがセッション外の部署イベントのミーティングを仕切ることになったんです。その時にすらすら話し合いを進められていました。
「すごい!こんなに人って変わるんだ」って。「やっぱり場数を踏むことが大事なんだな」と思いました。

2年目のチーム開発拡大コンサルティングに関して感想をお願いします。

本田:やっぱりミスリーディングというのが怖かったです。
小笠原先生には現場を見ていただいていない状況にありながらも、様々な不測の事態に備えて「こういうケースはどう対応するのか」という対応例やフィードバックを貰えたのが非常に助かりました。
コンサルティング中にメモしたものはバイブル的に使わせて頂いていて、3 年目は自分で矯正できるようになっています。
清水:私は定期的にプロの意見をもらうことによって、知らない間に軌道がずれてしまっているかもしれないところを方向修正していけたと思います。
林田:小笠原先生に困っている事を相談する時間の中で、我々自体もお互いにアドバイスし合っていたので、全方向的にレベルアップできたのが良かったです。

自律自走状態の3年目

3年目はほぼ弊社からの支援が必要ない状態でしたが、現場ではどのような状況ですしたか?

本田:ほぼ私(コーチ)の介入なく TDP が進んでいます。介入しないといけないかという場面になるとチームの誰かが言ってくれます。それはリーダーレベルの人だけでなくメンバーレベルの人から出ることもあります。
非常に良い状態になっていると思います。
 また、TDP1 年目のセッション内で 10 年後のビジョンに向かってやろうと掲げました。しかし、結局 1年で人事異動等もあってチームが解散になって、これは「どうせ 1 年で終わるのになぜ 10 年後の話をしないといけないのか」とネガティブに考えてしまうリスクがあると思いました。
そこで、2 年目からはもう少し近い 5 年後の目標を立ててもらい、2~3 年目のチームコーチングにおいて、チームとして5年目の目標に向かって継続しています。もちろんメンバーは入れ替わりもありましたが、その度に過去にコミットした内容は本当に修正の必要がないかという討議を経て腹落ちしてもらっています。

部門全体を“チーム”にする

この3年間の手ごたえはどういったものですか?

本田:チームに入ったメンバーが随分リーダーシップを発揮できるようになって、少なからず今我々の部署内でタイガーチーム(少数精鋭チーム)になっています。この TDP を 1 年で終わらせていたら、今の状態ではなかっただろうなと率直に思います。
清水:「TDP を導入してもらって良かったな」というのが一番。開発した製品をきっちり市場に出すこともできました。
今となっては、他チームを見ていると時々「なんで、あそこはあーなんだろうね?」って思うことがあります。決めないし、ズルズル先伸ばしにしているし、声の大きい人に会議が引っ張られるし。でもそれは我々が成長したからこそ見えている部分なのかなと思います。
林田:TDP 経験者と未経験者で差が激しく出るなと感じます。
それから、私はよく海外の人たちと仕事をするのですが、その人たちと話が停滞した時に TDP の手法を活用すると話が進むようになりあした。話をまとめたり、アイデア出しの時にも使えました。
だから、どこででも使える手法なのだと改めて感じました。

今後に向けての課題は何ですか?

本田:TDP1 年目のセッションの時に入社 2 年目のメンバーが声を大にして言ってコミットした「我々がコアチームとなって部署内や他部署に伝播していく」、その若手のメンバーが言い出した内容を 2 年目 3 年目と私は止めてはいけないと思っています。
具体的には「部署内の 70 人に TDP を展開し、そこから外の部門も巻き込んでやっていく」という大きな目標を入社 2 年目のメンバーが話して。上長の私が「やらなければならない」とコミットをしていました。しかし、現実的には、わたし一人で伝播させるのは難しいと思っていました。さらに大きな枠組で自律自走できるような集団になることが、今後の課題だと思っています。 そんな中、チーム外の別の一人(弊社研修受講者)が TDP を実践してくれて、かなり良い状況になってきました。純粋にチームビジョンで「会社全体をチームにする」ということも合意していたことも後押しになっていると仰っていました。
林田:これから4、5年目と取り組んでいくということになると、「そろそろ中堅メンバーは外部にTDP を展開していくということをやってもいい」と個人的には思います。これまで積み上げてきた経験とノウハウを活かして、影響力を広められるんじゃないかな。
本田:振り返ってみると「こういう点がポイントだった」というようなこれまでのプロセスを書いているバイブルのメモがあるので、それを見ながらやればなんとか出来ると思う。
林田:「自分がさらに外側へ影響を及ぼしていく」というところを来期はやってみたいです。
清水:一方で我々が立てている目標は結構他のテーマの影響を受けやすいので、「どうせ僕たちが頑張っても…」というようなマイナス思考になりやすいという危惧があります。でも、他部署の影響を受けてこちらの仕事が止まる時に「自分たちのテーマやっている場合じゃない。その人たちを救いに行こう!」というマインドと動きに今はなっています。このことは TDP で議論をしていなかったらそのようにはなっていなかったと思います。「あの人たちはあの人たちの仕事」「なんで遅れているの?」と静観していたと思います。
だからTDPをやっていて本当に良かったです。
本田:チームの中で「助けに行かなきゃいけないよね」という風にコミットできているよね。
林田:他チームから「そこの部署は仕事が楽しそうでいいね」「一枚岩だよね」って言われるのは何より嬉しいし自信に繋がっています。